5pb.のFive Records レーベルから発売された、古代祐三氏の往年の名作集第1弾。ジャケットイラストは、漫画『コブラ』などで有名な寺沢武一氏による描き下ろし。この2ヵ月後には、第2弾の『Yuzo Koshiro BEST COLLECTION Vol.2』も発売されている。 今作は古代氏が手がけた中でも、評価や人気の高かったFM音源作品を中心に、再び世に送り出すべく企画されたもので、復刻版も含め全曲が新規レコーディングされている。なお、この年には、ニンテンドーDSで『世界樹の迷宮』が発売されており、そこで使われたFM音源の楽曲は新旧ユーザーともに高く評価され、再び古代氏のFM音源楽曲が注目されると言うような時期であった。 Disc1は、1991年1月に発売された『ACTRAISER』のオリジナルサウンドトラックの、復刻版にあたる。
『アクトレイザー』は1990年12月にエニックスよりスーパーファミコンで発売されたアクション＋シミュレーションゲーム。音源はサンプリング8音で、古代氏にとってPSG・FM以外の音源を初めて使ったゲームタイトルとなる。この作品の楽曲は、それまでに古代氏が世間から持たれていたグレッシブ・ロックのイメージからは大きく転換した、オーケストラを用いたクラシック調の楽曲に仕上がっている。ライナーノーツでは、『イース』シリーズのプログラマーだった橋本昌哉氏が作り上げた独自のサウンドドライバによってオーケストラの音が出せるようになったと言う事を古代氏は述懐しており、氏の音楽的な素養が生かされる環境が作れた事で、代表作となる名曲たちが生まれたと言う事になる。
なお、15トラック目の「レベルアップ」は'91年版サントラには未収録で今回が初のCD化となる。また、「捧げ物」はループする曲ではなかったため'91年版サントラだと1周のみの収録だったが、今作では2周分収録されている。 Disc2は、1991年4月に発売された『MISTY BLUE』のオリジナルサウンドトラックの、復刻版にあたる。
『ミスティ・ブルー』は、1990年3月にエニックスよりPC-8801で発売されたアドベンチャーゲームで、おまけゲームとして『えにっくす くえすと』と言うRPGも入っていた。使用音源はFM音源で、サウンドボードII（FM6音・SSG3音・リズム6音・PCM1音）に対応。「BOOWYのようなテイストで」と言うリクエストによって作られたと言う楽曲は、全体的に当時のロック・ポップ色の強いサウンドに仕上がっており、ユーロビートなダンスミュージックなど、時代を感じさせるような音楽も随所に入っている。後半部分は上記『アクトレイザー』のFM音源版の習作を収録。
'91年のサントラではシームレスに繋がっていた「Misty Blue」〜「Hold me tonight」の２曲は、今回それぞれ個別に収録されており、カットされてしまっていた後者曲のイントロ部分も入っている。また、「Escape」は'91年版で１トラックにメドレー収録されていたが、今回は「Escape1」と「Escape2」に分割されて収録されている。そして、アクトレイザーの「神の試練」は今回フェードアウトせずに、曲の終わりまで入っている。ちなみに、'91年版で未収録だった「Micky's Room」「Police」と言った曲は、今回も残念ながら収録されていないが、そう言った楽曲は、作発売直前に配信が開始されたEGG MUSICの『MISTY BLUE COMPLETE SOUNDTRACKS』にて聴く事が出来る。 Disc3は、『ストーリー オブ トア 〜光を継ぐ者〜』のオリジナルサウンドトラック。復刻作品ではなく、今回が初のCD化となる。
『ストーリー オブ トア 〜光を継ぐ者〜』は、1994年12月にセガよりメガドライブで発売されたアクションRPGで、メガドライブのRPG強化キャンペーン「メガロープレプロジェクト」作品の一つだった。水・火・闇・緑と４つの精霊を召還できる「金の腕輪」を手にしたルオ王子が主人公で、海の王国ポセイドニアが舞台。神殿や城、洞窟と言ったフィールドを、多彩なアクションを駆使しながら謎を解き攻略していくゲームで、開発はエインシャントが行っている。アート・キャラクターデザインを古代彩乃氏、イラストを漫画家の有賀ヒトシ氏が担当しており、そして、古代祐三氏は音楽作曲だけではなくゲームのプロデュースも手がけている。なお、『トア』には1996年にセガサターンで続編の『トア 〜精霊王紀伝〜』が発売されている。こちらはサントラの市販はなかったものの、エインシャントのサイトにてCD-Rが通販されていた。
トアの音楽は、前述の『アクトレイザー』を初め、1992年にPC98で出た『アイ・オブ・ザ・ビホルダー』や『ゲイジ』などでその片鱗を見せていた、「FM音源でオーケストラを再現しようとする試み」が開花した作品とも言える。オーケストラの楽器の音を出すのが難しいFM音源ではあるが、音色や技法など根幹のサウンドを追求する事で、音源で出来る表現を超えたかのような音を実現しており、最終トラックに収録されている「Master mind」では、グランドピアノの音を見事に再現していたりする。古代氏はは当時作曲技法に傾倒していたと述懐しており、さらに今作では『ベアナックルIII』で使われた自動作曲プログラムの改良版も使用する事で、通常あまり耳にしないような調や独特なメロディの楽曲が多く、ゲームの持つ雰囲気を表現するのに一役買っている。ちなみに、この後に古代氏がFM音源を扱う事は、1995年にPC98で発売された『卍PSY幽記』程度しかなく、絶大な人気を誇ったFM音源による”古代節”が再び聴けるようになるには、10年以上を経た『世界樹の迷宮』まで待たなければならなかった。 | 
